私は、この夏に引っ越しをする予定だ。
物件を探すついでに散歩をしていた。
気が付くと、緑色の文字で「ホームバンクサービス」と看板にかかれた、
不動産屋さんの前に来ていた。
良い物件情報があるかもしれない、と、店頭を覗こうとすると、
「何かお探しですか?」と、声をかけられた。
斜め上を見上げると、そこには、不思議な、しかし、優しげな青年が、
ニコニコとこちらを見ているではないか。
その青年は、まるで古い海外ドラマに出てくる探偵のような、
特徴的なコートと、大きな虫眼鏡を持っていた。白い手袋までしている。
そして、先程見た看板と同じ、きれいな緑色の目をしている。
何より驚いたのは、ネズミのような大きな耳と長いしっぽがついていたのだ。
・・・・しかし、人間の耳もついている。なにかのコスプレさんだろうか?
しかし、柔らかな物腰や、穏やかな声の調子から、とても好印象を持った。
思わず首を傾げながら、聞いてみた。
「え?あ、あの・・・・物件情報を見に・・・・あなたは?」
「すみません、申し遅れました。僕は『いい家みっけマウス』といいます。」
青年は答える。
・・・・少し、詳しく素性を聞くと、この『ホームバンクサービス』のキャラクターが、
よりお客様のサポートが出来るように、人間の姿に変身したのだ、という。
「耳としっぽは、消すこともできるんですが」
ポスンッという音とともに、彼の耳としっぽが、どこかへ消えてしまった。
「長く消すのは大変なんですよ」
また、ポスンッという音がして、耳としっぽが現れた。
私は、その様に面喰ってしまうとともに、「耳としっぽがなければ、
普通にイケメンなのに」という言葉を飲み込んだ。
「さあ、お嬢さん、ご案内いたしますよ。ここには、優秀なスタッフが何人もおります。
きっと、ご希望に沿った、予想以上の物件が見つかりますよ。何なりと、ご相談ください。」
そう言われて、私は、不思議な魅力をもつ青年に、恭しく導かれ、
店の奥へと入っていった・・・・